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2010年9月19日 (日)

東京・足立区花畑図書館長の不当解雇撤回裁判、勝利解決

 足立区立花畑図書館長は、2009年2月末に、雇用者である(株)グランディオ・サービス(花畑図書館の指定管理者)から解雇(雇い止め)を通告解雇され、同年8月に解雇の取り消しと解雇以降の賃金支払いを求めて、昨年8月に東京地裁に提訴しました。

 以降地裁での口頭弁論をかさねてきたところ、今年2010年3月グランディオ・サービスは方針転換して早期和解への強い意思を示し、和解交渉を重ねて、5月19日に和解締結となりました。花畑図書館長争議支援共闘会議は7月23日に勝利報告集会を開き、「本件争議は勝利のうちに解決しました。花畑図書館長の職場復帰は実現しませんでしたが、労働契約の実質が継続雇用を前提としたものであること、解雇(雇用更新拒絶)には正当な理由が全くないことを全面的に論証し、会社側は反論らしい反論を主張できず、早期の和解に応じざるをえないところに追い込み、おおむね原告の主張を受け入れた水準の解決金による和解を実現することができました」(支援共闘会議声明)と発表しました。

 裁判闘争にまで至ると、職場復帰は原告側にとっても望ましい状況ではないことが多く、解決金に上乗せして和解することになるようです。和解に際しての解決金の額を公表しないとの一項(口止め)があるため、最終の正確な金額は伝えられていませんが、ほぼ原告の主張通りの金額が支払われたとのことです。グランディオ・サービスは、当初要求の「解雇以降の賃金」のおよそ2倍の解決金を払ってでも、早期和解を決断する状況に追い込まれたということです。

 受託会社と委託側(足立区)との関係

 指定管理でも委託でも、当然に委託する側が、この場合は足立区が契約どおり指定管理者が事業を遂行しているかチェックし、その確認のうえに指定管理料を支払います。そのため、指定管理者の失態は、それを責任もって監督する部署の失態と見なされ、議会等でも追及される恐れがあるので、チェックとは正反対に、問題が起きたらそれを隠すという保身的な傾向が生じます。加えて、指定管理導入は行政トップの至上命令なので、図書館行政の責任者は問題を起こさず乗り切る使命(今日的言い方ではミッション)が課せられ、保身的傾向はさらに拍車がかかります。

 これが少しだけ崩れたのは、8年前に江東区の図書館で起きた、窓口業務等を受託していたTRC社員が図書館勤務時間中に他人に成りすまして、業務上知りえたその他人の個人情報を使って図書館に電話したことが区の職員に知られて問題となり、全国紙にも取り上げられた事件です。少しして、受託会社社員より図書館職員に問題があったのだ、というまことしやかな噂が全国に流れました。「こんな小さいことを騒いで問題にした側に問題があった」ということでしょう。「こんなことは他では問題にならない」と言っているわけです。何か問題が起きても、もみ消してしまうという、あってはならないことを行う体質が行政の中にあるのは、残念ながら一定の真実です。指導監督する側が指導監督される側に馴れ合ってしまうのです。この事件への対応は、隣接の文京区が「指名辞退届け」をTRCに出させたのに対し、当の江東区は、TRCに再発防止策を区に提出させるという非常に甘いものでした。

 劇的にその関係が崩壊するのは、裁判のような逃れようのない状況で責任が追及される場合です。富士見市で起きたプール死亡事故では、業者側と市側がその責任をなすりあいました。足立区の場合は被告に行政側は入っていませんが、裁判がこのまま推移すれば、区が指導監督責任を問われる事態に追い込まれます。普通は、区が「業者の失態」に巻き込まれることを恐れて、業者に何らかの圧力をかけて収拾を図らせることになります。

「負」は受託会社社員(スタッフ)に集中

 もともと、足立区を含め指定管理者導入の狙いは経費の削減にあります。それにもかかわらず、民営化によるサービスの向上や維持を議会や住民に公表宣伝します。こんなうまい話は世の中にありません。そのつけはすべて受託会社社員に集中します。

人員は前より減るか、アルバイトに置き換えられるが、業務は確実に前より増えるので、まともに仕様書どおりに業務を遂行すれば、図書館の中心メンバーは残業をしなければこなせなくなります。指定管理に移行したときの花畑図書館の職員数は、フルタイム職員は8名→7名(しかも内3名は週30時間勤務)、アルバイト職員9名→8名と減っています。図書館勤務経験者はほとんどいないという状況でした。

被告グランディオサービスは、「残業をなくせという指導に従わず、従業員に残業させた」と解雇の理由を述べました。原告花畑図書館長は「(グランディオサービスがプロポーザルで区に出した)提案書や(業者が行うことを区が指示した)仕様書の内容どおりに運営するためには残業せざるをえない」と反論しました。残業が業務上必要だったのか、それが争いの核心部分です。裁判を通じて、グランディオサービスは自らの主張を証明する具体的事例を挙げることはできませんでした。それどころか、「児童サービスについては、図書館の基本業務ではない。1年目には無理にやらなくても構わないと指示していた」と区との契約に反することを公然と表明したりしました。一方、原告側は、残業内容や館長としてやってきたことを具体的に説明しました。これらにより、グランディオサービスは金だけが目当てで図書館業務をきちんと実行する気がないこと、残業代のわずかな出費を惜しんで誠実に仕事をしていた館長を解雇したことが、誰の目にも明白になりました。

一方足立区は「引き続き関連法規の遵守を求める指導はしていくが、個々の事例については、区は関与する立場になく、適切なしかるべき機関(労働基準監督署)に判断をまかせる」(支援共闘会議への足立区回答)としていますが、指定管理者への指導監督、委託金額の算定基礎(特に人件費)の適正性、問題企業に委託したことの責任など、裁判に引きずり込まれた時に耐えられない指定管理の暗闇部分を相当に抱え込んでいます。足立区は「指定管理者は、総合的に判断して選定している。プレゼンだけでなく、提案書や経営や事業計画など、総合的にすぐれている事業者を選定している」と述べる一方で、「民間業者のすべてが運営のノウハウがあるわけではない」(いずれも前記足立区回答)とも述べており、「あるはずのこと」(建前)と「今あること」(実態)との乖離は大きなものがあるように見えます。

最後に

指定管理者の図書館を支えているのは、官製ワーキングプアと呼ばれる指定管理者の社員です。責任者クラスでも月収20万円前後、一年契約、スタッフと呼ばれるアルバイト社員は時給800円台という劣悪な労働環境は、社会問題とされながら改善されないまま続いています。一方的に解雇されても泣き寝入りするしかないという中で、今回足立区花畑図書館長の解雇撤回の裁判闘争がもたらしたものは大きいと思います。

東京の図書館をもっとよくする会は、これまでも「民営化」の問題を活動の中心に取り上げて活動してきました。そして、とりわけ、図書館の充実発展からだけではなく、日本の現在将来の問題として、これら指定管理の図書館に働く人たちを公正に処遇すること、ワーキングプアを解消することを、最重要の課題と考えています。足立区の運動を支援し担ったのは公務公共一般等の労働組合の支援共闘であり、労働組合が力を発揮しました。私たちの会は、会として声を挙げています。それでは世の中を動かすことはできません、世の中を動かすもっとも大きな力になるのは、そこに働いている人がこのことに取り組む労働組合に加入し、声を挙げていくことだと考えています。

池沢昇(東京の図書館をもっとよくする会・事務局)

(記録集「花畑図書館長争議勝利報告集会」を頒価1000円(送料別)で販売しています。

  申し込み先東京 公務公共一般労働組合 電話03-5395-5255
メール  k-ito@union-kk.com もしくは matuzaki@union-kk.com

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コメント

初めてコメントします。

某図書館で働き始めています。働き始めてとても驚いています。

まさに低賃金で重労働…二日目でカウンター業務。マニュアルもちゃんとしたものが無く、細かい指導も無く作業を教えて貰うも聞く人聞く人微妙違います。

上から目線の割りに教え方が下手な人がおり、正直戸惑っています。

部下の査定もそうなんですが、「ちゃんと教えられてるか」の「部下が下す上司の評価」も必要だと思います。業務がこなせるからと言って人に分かり易く教えられるのかは別なんですよね。

賃金アップも何年か先で生活も毎月ギリギリです。ストレスもあり、転職を考えてしまいます。

この先図書館は変わるのでしょうか…。

投稿: 花吹雪 | 2010年9月26日 (日) 23時26分

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